2019/08/17 21:21
3世紀近い時を経た今も咲き続ける茜色と優しい藍色、経年で柔らかさと深みを増した薄ねず色の手紡ぎ木綿地。
綿花と染料に恵まれた地、コロマンデル海岸(インド南東部) 一帯で17世紀に始まったとされる カラムカリ と呼ばれた手描き更紗は 捺染(*1) と呼ばれる技法を用い文様を描き出しています。
今回ご紹介する額装古裂は17-18c頃のインド更紗
インドネシア向けに製作されたものとされており、王族の儀礼布や寺院の掛け布などとして使用されていました、
後に日本にも渡り 胡麻手 と呼ばれ、武将や大名そして財閥の元で珍重され伝えられて来た渡りのインド更紗です。
私が初めて同手のインド更紗に出会ったのはバリ島のアンティークディーラー宅にて、2度目は五島美術館の古渡り更紗展にてガラスの向こう側でのこと。
思えばそれ以来ずっと心に刻まれていたこの布と、私が出逢えたのはそれから15年以上も経った昨今のこと。
それは長い時間の中でいつしかフラグメント(断片)となった状態で、小穴や裂けも見られました、包み裂としてご提案するには心もとない糸のリキ具合、でもまだまだ美しく咲いてくれています。
そこで、出来るだけ長くそして日々の中でお愉しみ頂けますように、と
見所有る箇所をトリミングし、小穴には裏から共布で補修した後、額装品としてご提案させて頂くことに致しました、今夏の課題の内の一つでした。
ようやく本日、7点の額装品が整いましたため、当サイトのWebshopにてご紹介をさせて頂きました。
( 全てのお品物を実店舗でも同時にご紹介しておりますので余儀なくSOLDとなる可能性もございますこと、何卒ご理解、ご了承くださいませ。)
額装に付きまして、更紗の手紡ぎ木綿の風合いに沿うように麻布地のマットと、それぞれを干渉しないシンプルな額を取り合わせました
様々なスタイルのインテリアに取り入れ易いよう。
(*1) 捺染 とは
今回の胡麻手インド更紗は 手描き捺染 と呼ばれる技法により文様が描かれたものとなります。
地となる木綿はそのまま染料となる植物染料で文様を描いても定着せず水などで流れ落ちてしまうため、先ず初めにミロバランの実(タンニン酸)と水牛のミルク(動物性たんぱく質)を用いて下染処理を施します。
次の工程は天然染料染で染色を施すのですが、まだ直接は描けません
ここからは科学反応の世界です。
この場合ですと、インド茜を煮出した液に浸し染めした時に 黒 と 赤 の文様を残したい箇所 に先ずは カラムペン と呼ばれるペンでそれぞれを描き、それからようやくインド茜の染液で浸し染に入ります。
鉄塩 = 茜に反応して黒いラインとなっています
明礬(ミョウバン)= 茜に反応して赤い花文様と花びらの文様となっています
浸し染することでインド茜の染料が媒染剤に反応し、それぞれ黒と赤に発色し定着します。
更に、青の文様は 藍染したく無い箇所 を先ずは全て刷毛又は木型などに蝋付けをし防染した後に藍液に浸すのです。
(先ほど茜染して仕上がった箇所も全て糊で伏せます。)
それが終わったら蝋を取り除きます。
最後に、白い下地に残った茜の染料を、牛糞を溶かしたアンモニア成分の中で何度も洗う工程を経てそうしてようやく完成します。
——— 参考文献 ーーー
五島美術館展覧会図録 古渡り更紗
京都書院 世界の更紗
染織工程だけでも気の遠くなる作業の繰り返し、今の時代よりもっと緩やかでそして豊かな時間を感じます。
PS:これはインド更紗だけに限らないことなのですが、
私たちよりも永くこの世に在るものが、私たちと同じ人間の手によりそれぞれの生活様式の中、必要に応じて祈りや願いと共に作り出されていたことが素晴らしいと思う次第です、
何より国も時代も宗教概念も超えて、根本で心が動くことが純粋に喜びの一つです。
新しいサイトまだ不慣れでは有りますが本日、希少古裂インド更紗の額装品を7点掲載させて頂いております
改めまして、どうぞよろしくお願い致します。
FUCHISO